研究内容
「なぜ我々はこの世界に存在しているのか・・・」
物理学で、こんな根源的な問いに迫ることが出来るかもしれません。
「なぜ我々はこの世界に存在しているのか・・・」
物理学で、こんな根源的な問いに迫ることが出来るかもしれません。
我々の体や身の周りにある物質は、すべて原子から出来ています。原子は、陽子や中性子が寄せ集められた原子核と、その周囲に存在する電子で構成されています。一方、これら物質を構成する粒子に対して、電荷が逆になっている反粒子というものが20世紀初頭に発見されました。この「反粒子」によって構成されるものを総称して「反物質」と呼びます。宇宙が誕生した時、最初空っぽだった宇宙空間で対生成によって物質と反物質が作られていったと考えると、物質の量と反物質の量が等しく保たれてしまい、いずれすべてが対消滅してしまいます。しかし、様々な天体や地球上の物、ひいては我々の体も、すべて物質として存在しており、突然反物質がやってきて、対消滅して消えてしまうことはありません。地球が誕生してから46億年、これほど長い間物質が安定して保たれているということは、どうやら反物質の量が物質の量に比べて相当に少ないようです。それでは、物質と反物質の量がアンバランスになってしまったのは、なぜなのでしょうか。
キーワード:反物質
物質と反物質の量が異なる理由は、未だ解明されておらず、現在も研究が続いています。しかし、その謎を解く鍵は少しずつ明らかになってきています。物質と反物質の量がアンバランスになる条件の一つが、CP対称性が破れていることです。これは、荷電共役変換 (Charge conjugation: 電荷を逆にする数学的操作) および 空間反転変換 (Parity: 鏡写しにする数学的操作) を同時に行った場合に、物理法則が変わってしまうことを意味します。このCP変換と同義となる変換が、時間反転(Time:文字通り、時間を反転させる数学的操作)です。現在のところ、C変換、P変換、およびT変換をすべて同時に行った場合に物理法則が変わらないこと(CPT保存)は高い精度で示されているため、T対称性が破れた場合はその現象ではCP対称性が破れていることが要請されます。
キーワード:対称性の破れ
永久電気双極子能率(Electric Dipole Moment : EDM)は、古典的には正電荷と負電荷が対になっているようなベクトルです。電子や原子、中性子などの基本粒子が、スピンに沿ってこの性質を永久的に保有している場合、T変換を行ったときにスピンの向きは反転するのに対し、EDMのベクトルは反転しないため、T対称性の破れが生じます。1957年にオークリッジ国立研究所のSmith、Purcell、Ramseyが、最初のEDM直接測定を中性子ビームを用いて行って以降、電子、中性子、原子、分子などに対してこの性質の存在を確かめる実験が行われていますが、現在までにどの粒子に対しても有現値は発見されていません。
EDMはどのようなメカニズムで発現しているのでしょうか。真空中では、様々な素粒子の生成・伝搬・消滅が繰り返されています。このような量子補正効果と呼ばれる現象の中には、未知の素粒子、たとえば超対称性粒子などが生成・伝搬・消滅する効果も含まれています。未知素粒子や対称性の破れの効果により基本粒子に電荷分布の偏りが生じてEDMが発現します。このEDMの大きさは、未知素粒子の質量や対称性の破れの度合いを示すパラメータに依存しています。このようにEDMには、真空中に凝集している未知素粒子の情報がたくさん詰まっています。
原子番号87番のフランシウム(Fr)は第7周期の最初の元素(=原子量最大のアルカリ原子)です。その性質として、最も長いものでも20分ほどの寿命しかなく、自然にはほとんど存在しません。しかし、加速器による原子核反応を用いて人工的に生成することで、実験に利用することができます。フランシウム原子は、原子核に多数の陽子を含むことから原子内部に軽い元素と比較して強力な電場を生じます。この性質を利用し、内部構造として保有する電子のEDMを、約1000倍に増幅して観測する「顕微鏡」としての役割を持つことが相対論的結合クラスター理論の精密計算により示されています。
キーワード:レーザー冷却&光格子